幾度も川を渡るように

幾つもの生を生きてきた。

それは別々の人間。

ただ生きるのが容易くなるために

借りた姿と人生を。

幾度も幾度も。

渡ってきた。

己とは何なのかと。

問うことはない。

姿も声も生き様も借り物となっても

中心に生きるのはただの己だった。

揺らぐことはない己だった。

あの日まで。

あの女に再び出会うまで。

己とは何だったか。

不可解な感情が自分を乱す。

姿形、声が変わろうとも

揺らぐことはなかった自分が

いとも容易く乱される。

奈落の像が波紋で掻き消されそうで。

水面に映った偶像のようで。

女を消さねば

己が

己が

分からなくなる。

消さねば。
消さねば。

目を閉じて女ーー桔梗の行方を追った。